大気中光電子収量分光(PYSA)の原理
大気中光電子収量分光(PYSA)の原理
物質表面に紫外線を照射すると電子が放出されます。
この電子は光電子と呼ばれます。
光電子は、紫外線のエネルギーにより放出数が異なります。
紫外線のエネルギーと光電子の放出数(光電子収量)との関係から物質表面の様々な情報を得ることができます。
大気中光電子収量分光装置は、光電子をオープンカウンターという特殊な計数管を使って大気中で計数する表面分析装置です。
Fig.1に装置の概略を示します。
光源から放射された白色紫外線は分光器で分光され単色の紫外線が試料に照射されます。
分光器を操作して、光子のエネルギーを大きくします。
光子のエネルギーが試料物質の仕事関数より大きくなると試料物質から光電子が放出されます。
この光電子はオープンカウンターで計数され、Fig.2のような光子のエネルギーと計数された光電子数のグラフに表されます。
Fig.2の横軸は照射紫外線光子のエネルギー(照射光エネルギー)、縦軸は光電子収量です。光電子収量は、光電子の1秒当たりの計数値です。
このグラフは、多くの場合、放物線状になります。
そこで、Fig.3のように縦軸を光電子収量の平方根(1/2乗)にしてグラフを直線化します。
これにより光電子の放出が始まるしきい値エネルギーと傾きが求めやすくなります。
このしきい値エネルギーは試料物質表面から電子を一つだけ取り出すときに必要なエネルギーです。
これは、仕事関数、またはイオン化ポテンシャルと解釈されます。
傾きは光電子放出量の目安となります。
オープンカウンターの電子計数原理
オープンカウンターは以下の動作を繰り返して大気中で電子を一つひとつ数えます。
①電子の発生
紫外線(UV)の照射によりサンプルより電子(ⓔ)が放出されます。
電圧が印可されたサプレッサグリッド(Gs)により電場が作られ、電子はオープン
カウンターへと向かいます。
図の記号:以下同じ
A : アノード Gs:サプレッサグリッド ⓔ:電子
Gq:クエンチンググリッド UV:紫外線
Fig.4
②酸素をキャリアとした電子の移動
電子は酸素(O2)に付着し、酸素負イオンとなり、
オープンカウンターにドリフトします。グリッド(Gs,Gq)を通過し、高電圧が
印可された、アノード(A)へと運ばれます。電子はアノード近傍の不平等電界により
酸素分子から引き離されます。
Fig.5
③電子なだれによる電子の検出
電子は不平等電界で加速され周囲分子に衝突してイオン
化する『電子なだれ(放電現象)』を引き起こします。発生した多数の電子(※)は
アノードにより放電パルス信号として検出されます。検出された信号はプリアンプ
により増幅されます。
※電子なだれにより、1個の電子は105~107個に増幅されます。
Fig.6
④電子なだれの消滅(クエンチング)
電子なだれは、電子と同数の陽イオンを生成し、陽イオンは、電子の検出を妨害します。
そこで、電子パルスの検出後、グリッドの電圧を変化させて、電子なだれによる陽イオン生成を停止させます。
さらにサプレッサグリッドの電圧を変化させて、陽イオンを捕獲・消滅するとともに、クエンチング中に電子が検知部内へ侵入すること防ぎます。
この電子なだれを停止・消滅させる過程を"クエンチング"と呼びます。
クエンチング開始から3ms後、初期状態へと戻します。
オープンカウンターは、①~④を繰り返して、光電子を一つひとつ計数します。
Fig.7
装置の構成
AC-2S、AC-5(AC-2)の構成
全体の構成は表示操作装置、光源部、測定部に分かれています。
Fig.8
AC-3の構成
窒素置換型光学系を用いているので、光源部と測定部は同じユニット内に収められています。
Fig.9